
行政法の学習を進めていくと、最後に壁となって立ちはだかるのが「地方自治法の関与」です。
国が都道府県や市町村の事務にどのように関与できるのか、また都道府県が市町村に対してどんな関与ができるのか、それぞれ条文で定められている内容を覚えるのはなかなか大変です。
まずは、地方公共団体の事務とは何かという基本的なことを理解しましょう。
初めはいくら理解してもなかなか正解できないと思いますので、繰り返し図を見ながら解くようにしましょう。
📘 覚えておくこと
地方公共団体の事務は、大きく法定受託事務と自治事務に分けられます。
まずはこの2つの違いをしっかり理解しておきましょう。
📙 法定受託事務
法律またはそれに基づく政令により、国や都道府県が本来果たすべき事務のうち、都道府県または市町村に委ねられた事務のこと
法定受託事務はさらに次の2つに分類されます。
- 第一号法定受託事務
都道府県や市町村が処理することとされる事務のうち、本来「国」が果たすべき役割に関するもの - 第二号法定受託事務
市町村が処理することとされる事務のうち、本来「都道府県」が果たすべき役割に関するもの
📘 自治事務
地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものです。

関与とは、国が都道府県や市町村の事務に対し、また都道府県が市町村の事務に対して干渉することです。
関与とは、国が都道府県や市町村の事務に対し、また都道府県が市町村の事務に対して干渉することです。都道府県や市町村の自主性や自立性を確保するため、関与は必要最低限に抑えなければいけません。
関与は、法律またはこれに基づく政令によってなされなければいけません。
都道府県や市町村の法定受託事務であっても自治事務であっても同じです。

📘 問)
第一号法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により都道府県、市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定めるものである
✅ 正解:○
📗 関与の形式
関与の形式は、次の5つです。
❶ 技術的な助言・勧告・資料の提出の要求
❷ 是正の要求
❸ 是正の勧告
❹ 是正の指示
❺ 代執行
関与の強さは、上から順に強くなっていきます。
どのような関与が許されているか、一つずつ順に図を見ながら覚えていきましょう。
すべての条文は、地方自治法です。
❶ 技術的な助言・勧告・資料の提出の要求
国は都道府県や市町村に対し、また都道府県は市町村に対して、法定受託事務・自治事務のいずれについても、技術的な助言・勧告・資料の提出を求めることができます。


第245条の4
各大臣(内閣府設置法第四条第三項に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣又は国家行政組織法第五条第一項に規定する各省大臣をいう。以下本章、次章及び第十四章において同じ。)又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
❷ 是正の要求
国は、都道府県の自治事務について、違法や著しく不適切な処理があった場合に、是正の要求を行うことができます。
さらに、国は都道府県に対して、市町村の第二号法定受託事務および自治事務についても、是正の要求を指示できます。


📘 問)
各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正または改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
✅ 正解:○
第245条の5
1. 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
2. 各大臣は、その担任する事務に関し、市町村の次の各号に掲げる事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該各号に定める都道府県の執行機関に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを当該市町村に求めるよう指示をすることができる。
一 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する事務(第一号法定受託事務を除く。次号及び第三号において同じ。) 都道府県知事
二 市町村教育委員会の担任する事務 都道府県教育委員会
三 市町村選挙管理委員会の担任する事務 都道府県選挙管理委員会の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
❸ 是正の勧告
都道府県は市町村に対して、市町村の自治事務について必要な措置を講ずべきことを勧告することができます。


第245条の6
次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
一 都道府県知事:市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会および選挙管理委員会を除く。)の担任する自治事務
二 都道府県教育委員会:市町村教育委員会の担任する自治事務
三 都道府県選挙管理委員会:市町村選挙管理委員会の担任する自治事務
❹ 是正の指示
国は都道府県に対して、法定受託事務について必要な指示をすることができます。
また、国は都道府県に対し、市町村の第一号法定受託事務について必要な指示をすることができます。


📘 問)
各大臣は、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠く、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正または改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
✅ 正解:○
第245条の7
1. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
2. 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
一 都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する法定受託事務
二 都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する法定受託事務
三 都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する法定受託事務
❺ 代執行
国は、都道府県・市町村の法定受託事務が法令に違反しているときには、 是正の措置を都道府県、市町村に代わって行うこと(代執行)ができます。
関与としての代執行が認められるのは法定受託事務のみです。


📘 問)
都道府県による法定受託事務の執行については、国の大臣による代執行の手続があるが、自治事務の執行についてはこうした手続はない
✅ 正解:○
第245条の8
各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
📏 処理基準
処理基準を定めるときは、目的を達成するため必要な最小限度でなければいけません。
処理基準の決定パターンは以下の4つです。
処理基準は法定受託事務についてのみ定めることができることを覚えておきましょう。
❶ 国 ➜ 都道府県
国は、都道府県が処理する法定受託事務について、基準を定めることができます。

❷ 都道府県 ➜ 市町村
都道府県は、市町村が処理する法定受託事務について、基準を定めることができます。

📘 問)
都道府県の執行機関は、市町村の執行機関の担任する第一号法定受託事務および第二号法定受託事務について、市町村の執行機関が当該法定受託事務を処理するにあたりよるべき基準を定めることができる。
✅ 正解:○
❸ 国 ➜ 市町村
国は、市町村が処理する第一号法定受託事務について、基準を定めることができます。

📘 問)
各大臣は、特に必要があると認めるときは、その所管する法令に係る市町村の執行機関が担任する第一号法定受託事務および第二号法定受託事務の処理について、市町村の執行機関が当該法定受託事務を処理するにあたりよるべき基準を定めることができる。
✅ 正解:×
❹ 国 ➜ 都道府県への指示
国は、都道府県の執行機関に対し、市町村の第一号法定受託事務について、基準に関して指示を出すことができます。


📘 問)
各大臣は、特に必要があると認めるときは、その所管する法令に係る市町村の執行機関が担任する第一号法定受託事務および第二号法定受託事務の処理について、都道府県の執行機関に対し、都道府県の執行機関が定める処理基準に関し、必要な指示をすることができる。
✅ 正解:×
第245条の9
1. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について、都道府県が当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。
2. 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める法定受託事務の処理について、市町村が当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。この場合において、都道府県の執行機関の定める基準は、次項の規定により各大臣の定める基準に抵触するものであつてはならない。
一 都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する法定受託事務
二 都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する法定受託事務
三 都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する法定受託事務
3. 各大臣は、特に必要があると認めるときは、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、市町村が当該第一号法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。
4. 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、第二項各号に掲げる都道府県の執行機関に対し、同項の規定により定める基準に関し、必要な指示をすることができる
5. 第一項から第三項までの規定により定める基準は、その目的を達成するために必要な最小限度のものでなければならない。
📝 まとめ
地方自治法の関与を完全に理解することはとても難しいです。
条文を読んでいてもなかなか頭に入らないので簡単な図を書いて覚えましょう。
基本的に弱い関与は自治事務にもでき、強い関与は法定受託事務だけにしかできないと覚えておきましょう。


関与の一覧図も是非活用してください!
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